かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(102) 天国と地獄 〜 社会の中の人間 8点】

【かわまりの映画ルーム(102) 天国と地獄 〜 社会の中の人間 8点】 平均点:8.23 / 10点(Review 209人) 1963年【日】 上映時間:143分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。 https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=1473

 

【あらすじ】

製靴会社ナショナルシューズの専務・権藤金吾(三船敏郎)が会社の持株買収を画策していた所に舞い込んだ一本の脅迫電話。ソレは「お前の息子を誘拐した。返して欲しくば3000万円用意しろ」という内容であった。果たして息子の純は無事だったのでイタズラかと思われたが、お抱え運転手の息子が同時に行方不明となっていた。犯人は間違えて誘拐してしまったのだ。しかし犯人は不敵にも「人違いだろうと構わない、お前が身代金を払え」と権藤に迫る。果たして誘拐犯は何者なのか??【へちょちょ】さん(2004-03-14) 

 

【かわまりのレビュー】

韓国映画の「パラサイト」がアカデミー作品賞などを受賞し、インド映画がパクリ元の名乗りを上げ、思わず「こちらこそがパクリ元ではないか?」とSNS上に投稿したので数年、もしかしたら十年以上の時を隔ててもう一度鑑賞することと相成りました。ただしこちらは「パラ」のポン・ジュノ監督が黒澤明監督の影響を受けたことを隠しもしていないしまた本作品が娯楽作品(推理作品、あるいは警察もの)として押しも押されもしない作品なので当事者によるパクリ元の主張はあり得ないでしょう。「パラ」と本作品に共通するのは高台と下町に象徴される富者と貧者の格差、そして小道具などにも神経を行き届かせている緊密な構成です。ただし、両作品の世界観や社会観は非常に異なっています。本作品に於いては富は勤勉と献身の対価として与えられるものであり、「パラ」の富豪はなぜか裕福、また本作品での貧者は正当な努力を拒む異常者、「パラ」の半地下一家は社会の波に乗り切れずに凋落した社会の犠牲者です。社会における人間についてこれだけリアルに描きながら他の黒澤明作品ほど人間性の奥底に切り込んでいるわけではない本作品にはわたしが娯楽作品につけることにしている最高点の8点しかつけられないのですが、本作品と韓国映画「パラ」を比較することは高度経済成長期の入口に立っている日本の倫理観とイギリスのEU離脱になぞらえてKOREXITとも呼ばれる韓国の自由主義陣営からの離脱を予見させる社会観や正義観を対比させてみると面白いかもしれません。

 

10 点の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=11&TITLE_NO=1473

8点(最頻出点)の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=9&TITLE_NO=1473

2点(最低点)、3点、4点の人のコメント

1.  《ネタバレ》  昔の横浜黄金町は本当にあんな感じだったのか、というのが一番気になる作品。前半はおもしろい。後半はいまいち。誘拐事件というのは脅迫された本人が身代金を払うしかないのか?というのが非常に気になる作品。本当の警察はもっとドライな気がする。泳がせておいて人が一人死んだのはどうでもいいのだろうか。それにしても昔の黄金町を見てみたかったなあ。
【MARTEL1906】さん [地上波(邦画)] 2点

2. 前半はいいけど後半がなあ…そこまで面白いものではなかったっす。最後の犯人の絶叫はいい。【Keith Emerson】さん 3点

3. 途中まではすごくおもしろい。企業の主導権争いによる誘拐犯罪かと思いきや、そうではなかった。よくあるような名刑事のあざやかな推理ドラマと違って、警察組織の分担された捜査の積み重ねによって、容疑者の範囲を狭めていく。それがあたかも現実の捜査のようで大変機興味深かったし、前半の犯人と警察の知恵比べもおもしろかった。

しかし後半の犯人が特定されてからはまったくおもしろくない。そのまま逮捕では刑が軽すぎるからといって、犯人を泳がせ新たな犯罪を起こさせ死刑に追い込むというのはいくら何でもひどすぎる。警察は犯罪を未然に防ぐことの方が優先しなければならないはずだ。
それに終盤の展開は、無理矢理「天国と地獄」というタイトルへのこじつけのようにさえ思う。これではなぜ犯人が誘拐を思い立ったのか、まったくわからない。【ESPERANZA】さん [映画館(邦画)] 4点

4. ケータイとネットが普及していれば1時間で解決する事件。今では考えられないほど練りに練った細かい構成と描写は芸術的だが、やっぱり2時間を超える映画は、よほどの場合を除いて私には合わないと実感。観終わって大切な娯楽の時間を無駄に潰した気分で一杯…。【クロエ】さん [DVD(邦画)] 4点

5. はっきり言って見にくい。誰が誰だか区別がつきにくい。(特に刑事)題名にしっかりとした意味があり、それは観ていて面白かった。ミステリというよりは社会派ですな。ちょっとあざといかも。いい加減白黒でしんどいのに、ちょっと長いって。【ぷりんぐるしゅ】さん 4点

6. やっぱり黒澤映画は時代劇だと思いました。【ゆきいち】さん 4点

 

【独り言】

三船敏郎は何を演じても三船敏郎です。「羅生門」の盗賊、「蜘蛛巣城」の家臣そして城主、「赤ひげ」の医者。。。そして仲代達矢は悪いんだけれどいつでもエリートサラリーマンなんですよね。本作品での事件の担当警部、そしてNHK大河ドラマ「新平家物語」での平清盛は福原に遷都して外国貿易を始めるだけの先見の明がありながら旧体制から抜け出ることができなかった、いわばエリート官僚のトップにしかなり得なかった役柄にハマっていました。本作品中での役柄と現在とが全く乖離しているのは山崎努です。本作品ではオタクですが伊丹十三作品の「タンポポ」では「シェーン、カム バック!」のシェーンだし「マルサの女」では「金を儲けるとは。。。」と言いながらウィスキーグラスからしたたる水を舐める哲学的守銭奴、そしてアカデミー外国語部門賞を受賞した「おくりびと」での役柄はそれらの総集大成といった趣きですが現在に近ければ近いほど温かみがあるんですよね。