かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(101) カロル ローマ法皇への歩み 〜 普通の青年を導いたのは? 9点】

【かわまりの映画ルーム(101) カロル ローマ法皇への歩み 〜 普通の青年を導いたのは?9点】平均点:n.a. / 10点(Review 1人)  2005年【伊】 上映時間:186分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。 https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=19001

 

【あらすじ】

ナチスポーランド侵攻は文学とスポーツを愛する明朗な青年カロル・ヴォイティワの世界観を覆した。ユダヤ人とポーランド愛国者の一般市民が残虐な迫害に晒される様を目の当たりにし、カロルは非暴力的手段によって暴力に抵抗するためにカトリックの司祭になる決意をする。ポーランドソ連によって解放された後もカロルは聖職者としてソ連による抑圧に対抗して精神の自由を求める人々の中心的役割を果たし続けた。聡明だが平凡な一青年が全カトリック教会の頂点に立つ第264代ローマ法王ヨハネ・パウロ二世となるまでの軌跡を描く。

 

【かわまりのレビュー】

ロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」の主人公は時に「主人公はピアノがお上手なだけ。」「主人公はピアノの才能があったから生き延びることができた。」等々の酷評を受けるようです。一方、本作品の主人公で後にローマ法王ヨハネ・パウロ二世となるカロル・ヴォイティワは同じ時代に青年期を送ったポーランド人ですが、聡明でひときわ感受性が強いという他は普通とは変わらないごく平凡な青年です。それでも「カロル・ヴォイティワはユダヤ人ではなかったのでナチス占領下で生命の危険はなかった。」など、ナチスの非人道的な行為が彼に及ぼした影響を疑問視する声もあるでしょう。でも、ナチス・ドイツポーランドカソリック聖職者の三分の一を殺害し、その事実に無縁ではいられなかった青年カロル・ヴォイティワが暴力に対抗する良心の砦となるために恋人や文学・演劇の道を捨ててカソリック聖職者を目指すに至ったその経緯からはナチス支配下でのユダヤ人のサバイバル・ストーリー以上にナチスの暴虐(そして旧ソ連の圧制)を如実に感じることができます。ローマ法王ヨハネ・パウロ二世となった後の主人公は455年ぶりの非イタリア人ローマ法王にして初のスラブ系ローマ法王、暗殺の危機に晒されかつその暗殺者を許した度量、歴訪した国の数や飛行機の搭乗時間が歴代で最多・最長という正にスーパーマンでしたが、カトリック教会で順調に出世し結婚という世俗的な幸福は捨ててもスポーツは捨てなかったカロル・ヴォイティワの日常、祈るだけではなく必要とあれば平服に身を包んでソ連の官僚との交渉も辞さなかった行動力、元婚約者だった女性に起きた医学では説明できない生命の奇跡、そして良心の府でありつづけようとするバチカン枢機卿らが「このような経歴・経験のあるヴォイティワなら世界においてその役割を果たすのに最適だ。」と考えて選出したに違いない、その期待に応えつくした生涯を余すとこころなく説き明かした作品です。