かわまりの映画評と創作

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【読書ルーム(156) プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

【『プロメテウス達よ』第6章 冷戦 〜 功労者たちのその後 8/9 (ハーンとマイトナー)】

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【本文】

ヨーロッパでは、人生の丁度三分の一に当たる三十年間を実験室の中だけでつれ添ったリーゼ・マイトナーとオットー・ハーンが一九六八年に共に九十歳前後の高齢で相次いで没した。イギリスのファーム・ホールで自殺を思いとどまったハーンはドイツに帰国した後、亡くなる二年前までドイツ国内で数々の名誉職を歴任したが、ハーンとマイトナーが亡くなる二年前の一九六六年、アメリカ政府はハーンとマイトナーにハーンの助手を勤めたシュトラスマンを加えた三人に、エンリコ・フェルミ功労賞を授与した。同賞が初めてアメリカ人以外の科学者に与えられ、しかも受賞者のうち二人までが旧敵国であるドイツの国民だったという事実は、マンハッタン計画に関係した科学者やアメリカ政府、そしてアメリカ国民が第二次世界大戦中にイギリスやアメリカを始めとする連合国を震撼させたナチス・ドイツの狂気、そして戦前においては他国を凌駕し、ナチスの下で保護されたドイツの科学に対する畏怖をすでに過去の記憶として葬り去り、原子力開発におけるドイツ人科学者の功労だけを純粋に称えることができるようになったことを示していた。しかも三人への功労賞の授与に当たって、高齢のハーンらを思いやり、アメリカ政府の要人がわざわざドイツに出張して授賞式を行うという異例の措置が取られた。イギリスのケンブリッジで余生を送り、授賞式に出席しなかったマイトナーのもとには現代の錬金術師となったグレン・シーボーグが賞状とメダルを届けた。

(続く)

 

【参考】

オットー・ハーン(ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%B3?wprov=sfti1

 

リーゼ・マイトナー (ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%BC?wprov=sfti1