かわまりの映画評と創作

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【読書ルーム(121)  プロメテウス達よ- 原子力開発の物語】

1/【『プロメテウス達よ』第5章  マンハッタン計画 (下) 〜 ロスアラモスでの秘密会談 3/3 】

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【あらすじ】

オッペンハイマーがワシントンDCで会議の結論を待つ軍事省長官に送った報告書はオッペンハイマーフェルミを説得するのに用いた行政府の尽力や国民からの血税の根拠を翻して科学者集団による決定と責任の回避の根拠に適用したものだった。それはたった四名からなった会議の実情を反映したものであり、結局は原子爆弾の使用を国民から権力を付託された行政府に国民世論が意見を差し挟む予知どころか原子爆弾という兵器とその完成さえも知らないままに一任するということだった。

 

【本文】

会議が解散した後、オッペンハイマーは仮眠を取り、仮眠から覚めるとすぐにワシントンの軍事省長官スティムソンらの委員会に提出する、科学者小委員会での討議の結果をまとめた報告書の作成に取りかかった。
「科学者小委員会は、示威のみを目的とした原子爆弾の使用では戦争を終結させることはできないとい
う結論に達しました。すなわち軍事目的をおいて他に原子爆弾の使用は考えられないということす。」
科学者小委員会の四人が日本への原子爆弾投下が不可避だという結論に達したことを書き記してから
オッペンハイマーは報告書にこう付け加えることを忘れなかった。

 

原子力エネルギーをこのような用途に供するために製造された原子爆弾に対して、私たち科学者は何らの処分権を主張することもできません。もちろん私たち科学者は過去何年かに渡って行われてきた戦争に関していろんな意見を持ち、自由にそれを述べることが許されている良識あるアメリカ国民の一員ではあります。しかしながら、私たち科学者に原子力エネルギーの出現によって新たに提起された政治的、社会的、軍事的な諸問題を解決するための特別な能力があるわけではありませんlxxiv[23]。」


オッペンハイマーによって提出された科学者小委員会の最終意見を受け、七人からなる小委員会は軍事
省長官スティムソンを代表とする意見書を作成した。
「(原子爆弾の)使用と目的と効果に関して十分な議論を重ねた後、軍事省長官は全員が以下のような結論に達したことを確認しました。
原子爆弾の日本への投下にあたって)日本に対して事前の通告はなされるべきではありません。また、非戦闘員が多数居住する地域を避けるべきです。しかしながら、広範な心理的な影響を与えるためには(戦闘員を主とする)居住者がなるべく多い地域を目標にすべきです。コナント博士と軍事省長官は、必須の役割を担い、多くの労働者を有し、労働者の住宅が近接する軍需産業の拠点に対して使用された場合(原子爆弾が)最も効果を発揮するということで意見の一致をみました。」

(続く)