かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(174) 菊豆  〜  因習という名の化け物 7点】

【映画ルーム(174) 菊豆  〜  因習という名の化け物 7点】 平均点:6.48 / 10点(Review 23人)  1990年【日・中】 上映時間:95分  

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【あらすじ】

「跡継ぎ息子を産め!」といっては妻を虐待する不能で子供のない老人の三番目の妻となった菊豆(コン・リー)は自分の身を守るために別の男の子供を生もうと決意する。その男とは同じ家の中で奴隷同様にこき使われている老人の甥だった。菊豆が男の子を産むと親類縁者は老人の跡継ぎ誕生として盛大に祝福するが、それは真実を知っている老人の、甥と菊豆に対する醜い嫉妬と争いの始まりだった。そして男の子はすくすくと育っていく。1991年アカデミー賞外国映画部門受賞作

 

【かわまりのレビュー】

染物屋が舞台になっているだけあって、色彩がすばらしい。それからコン・リーの演技もよかったです。「跡継ぎ息子を産め!」といって妻を虐待する子供のない老人(こんなふうにして子供ができるわけないでしょう)に耐えかねて主人公は「自分の身を守るためにはどうしても子供を生まねば・・・。」と決意しますが、封建的な中国社会に特有かもしれない家(それに加えて自分の身)を守り、跡継ぎを確保しようという意図がポルノまがいのストーリーとシーンにつながっていくのにはぞっとさせられました。この映画、決してポルノ映画ではないけれど、中国で上演禁止になったというのもわかります。後半、子供ができてからはもっと怖い。「中国人よ、家の亡霊に取り付かれるのはやめろ・・・。」という作者の叫びが聞こえるようで、何事もいきすぎると変態じみていくのかと感じました。美しい映像が重苦しいストーリーをなんとか救っています。

 

高得点(9点と8点)をつけた方のコメント

1. 酔わされた。 光に色に、コン・リーに! あぁ、たまらん!!【るーす】さん 9点

2. テーマ的にも色彩設計的にも翌年の「紅夢」と同系の作品ですけど、洗練され過ぎてた「紅夢」より、泥臭さの残るこちらの方が私は遥かに楽しめました。封建的な因習の残る時代、鬼の様な老主人に虐げられる若妻と甥(気の強そうなコン・リーが猿ぐつわを咬まされた上、鞍を乗っけられて責め苛まれる姿には、かなりムラムラくるものがある)。しかしコン・リーがただ虐められてる筈はないと思ってたら、案の定、徐々に本性を表していく。甥をたらし込んで子供を設け、主人の体の自由が利かなくなれば、陰湿に復讐し始める。しかし、親の因果は子に報いるのです(この息子はまるでダミアン)。例によって極彩色の反物で彩られた芸術映画風ながら、これは人間のダーク・サイドばかりを描いた極上スリラーです、8点献上。【sayzin】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2006-07-27 00:01:21)
3.チャンイーモウの優れた色彩感覚光ってます。風にたなびく反物、滴る雫、ガッタンゴットンと動く染色の機械?染物屋は一見鮮やかな色彩に彩られているが見えない闇の中で封建的な家父長制と厳しい折檻と許されざる愛。禁断の愛の行き着く先は因果応報、これが宿命であるとするならば悲しすぎる結末。【亜流派 十五郎】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2006-01-03 18:20:54)
4. 死者を弔う儀式は見もの。  チャン・イーモウは外国の評価の高い監督だが中国では評判が悪い。その理由は中国の悪い部分を見せているからと言われる。しかし彼は本当に中国を愛しているからこそすべてを映し出そうしている、【花守湖】さん 8点(2003-11-21 00:39:44)
5. チャン・イーモウ監督の「紅いコーリャン」を観た時ほどの感動はなかったにしろ、これはいい作品だと思いました。独特の色遣いの映像と言い、コン・リーの匂い立つような美しさと言い。たとえ、結末が救いようのない悲劇だとしても・・・。【ネジマキ】さん 8点

 

【かわまりの独り言】

チャン・イーモー監督の色彩美を高く評価する方でないと高得点はつけないです。色彩美に加えて次作の「紅夢」にも共通する中国社会、特に家族制度の非情を鋭くえぐった作品です。「紅いコーリャン」はあまり好きになれませんでした。ついでに、2点、3点、4点をつけた人が皆無の中で0点をつけた方のコメントは次の通りです。

 

登場人物に好感が持てない。中国だろうが、どこの国だろうが、この手の「人間愛」には魅力を感じない。【sirou92】さん 0点

 

【独り言の続き】

まあいいんですが、この作品が描こうとしているのは人間愛ではなくそれとは真逆のものだと思います。強烈な印象を与えるゴウツクばりの老人は男子の後継を得て家名を残すことばかりが念頭にあってかなりイカれているし、薄給で奴隷同然にこき使っている甥に対して「おまえは金がないから子孫を残せネーだろ!」みたいな変な優越感を持っているし、コン・リーが演じる菊豆は(言ってみれば追い詰められたこの人だけが少しはまとも???)保身と情欲の両方が動機で甥に擦りよる……「オマエさん方、三人三様でイカれてるよ。」と言いたくもなります。みんなが自然にしていればいい子を授かってその子が愛情深く育てられれば頼り甲斐のある跡取りになるんじゃないの? でも老人に関しては遅すぎです。