かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(155) クロッシング 〜 韓流ドラマは苦手だけれど… 8点】

【かわまりの映画ルーム(155) クロッシング 〜 韓流ドラマは苦手だけれど… 8点】 平均点:7.26 / 10点(Review 19人)   2008年【韓】 上映時間:107分   クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。  https://jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=18209

 

このブログの内容全ての著作権はかわまりに帰属し、映画タイトルの次、"〜"のすぐ後ろのキャッチコピー、【独り言】と【参考】を除く部分の版権はjtnews.jp に帰属します。平均点とレビューワー数はアップロード時のものです。

 

【あらすじ】

元花形サッカー選手だった炭鉱夫のキム・ヨンスは妻とサッカー選手を目指す11歳の息子ジユーンとともに北朝鮮で幸せに暮らしていたが、ある日妊娠中の妻が倒れ、栄養不足による結核感染と診断される。おりしも友人が中国の親戚から贈り物を受けたせいで逮捕され、ヨンスは物資が豊富な中国で妻の病気に効く薬を手に入れようと出国を決意する。しかし危険を冒して出国したヨンスが人道支援団体による保護や韓国籍の取得などを経験している間に妻は亡くなり、孤児になった息子ジユーンは父を追って中国の国境を越えようとする。

 

【かわまりのレビュー】

今から60数年前、日本では天皇の威光を笠に着たエリートを自称する軍人集団は自分たちの体面を守るために国民を盾にしました。「硫黄島からの手紙」に描かれているように、国民を守るために体を張って玉砕した軍人もいないわけではありませんでしたが、「日本の一番長い日」に描かれた本土決戦の主張は国民を盾にすることに他ならず、空襲での市民の死と戦場での兵士の死のそれぞれに本作品のようなドラマがあったわけです。そして、ドラマが入り込む余地もなく広島・長崎の原爆投下で蒸発して消え去った何万人かの市民とドラマにするにはあまりに痛ましい原爆後遺症でなくなった数十万人・・・。でも、軍人の復員と海外からの引揚者によって起きた戦後の食糧難の時代、日本人には「これさえ我慢すれば・・・。」という希望があったと思います。一方、この作品を見る限り、今の北朝鮮は日本が60数年前に相次いで経験したことを一度に、しかも希望なしに経験しているようです。他国人を拉致するテロリスト国家」と北朝鮮を非難してみたところで、北朝鮮の国民が民主的な方法で拉致を合法化したわけじゃなし、食料などの人道支援をしても、軍人や官僚の私腹を肥やすだけかと思うとやりきれないです。作品中で主人公が韓国の薬局で北朝鮮の医者に処方された薬を買おうとし、店員が「結核の初期治療は全て無料だから本人が保健所に行けばこの薬も無料。」と言う場面があります。つまり、日本や韓国では伝染病の予防など、国民の生活を守ることが国家の存在意義なのですが、北朝鮮では国家とは国民を犠牲にしてでも体面を保ち、存続しなければならない怪物なのです。この作品は多くの脱北者の証言に基づくリアリティと家族愛のドラマで迫ってくるものがありますが、この内容が早く時代遅れになってほしい、現状が変わってほしい、こんなことが長く続くはずがないと思わずにはいられないのでそこそこの点数をつけます。

 

9点(最高点)をつけた方、全員集合!

1.「胸が引き裂かれる想い」という言葉が映像化されているかのような実情は絶句で言葉が失われるほどでした...。政治や体制、何が悪い...など難しいことは一切語る事無く、ただ一つの家族が純粋に愛し、想い合う絆が描かれています。育つ環境で「生きる」というそのものが変わってしまう世界。私が生きているこの場所とはあまりにも掛け離れ過ぎている哀しい現実。だからこそ、見て、知っておかなければいけないのだと思わせてくれる作品でした。とても深い部分で家族や愛情、生きるという事を感じられる意味のある映画です。【sirou92】さん [映画館(字幕)] 9点

2.《ネタバレ》 きついパンチをくらった。最後はお父さんと一緒に息子に会えるようにと祈ってしまった。北朝鮮の現実は本当に惨い。「サッカ」ーと「雨」と「天国」が本当に哀しく切ないモチーフとして描かれていて、後半は涙腺が開きっぱなしになってしまった。今現実にこのような事が日本の近くの国で起きているのが本当に信じられない。韓国映画の底力はあっぱれです。社会的問題をこれでもかと見ている者に訴える力作だと思います。【カボキ】さん [CS・衛星(字幕)] 9点
3.いや~ 覚悟をして観たのですが、ヘビーな内容でした..フィクションとは言え、ヘビーでした.. 似たようなことが、北では起きているんだろうな..と考えずにはいられません..とても不幸なことです..そして、平和ボケした日本人、特に若者たちに観てほしい..それだけの、説得力、価値、があります! 映画としては、冒頭の入り方が秀逸でしたね~ オーソドックスで、シンプルで、登場人物たちの暮らす環境、背景が、すーと入って来て 一目瞭然..その後の展開、演出も、なかなか見事!です.. たくさんの人に観てほしい..そう思わせる、映画です! 良作!!【コナンが一番】さん [DVD(字幕)] 9点

4.おも〜い内容。若い人にみてほしい。【へまち】さん [DVD(字幕)] 9点

 

最低点(4点)の方のコメント

《ネタバレ》 これって実話ベースであるなら、小説の方が感動できたかも。映像にするならドキュメンタリーで。こんな風にすると感動の押し売りのような演出が鼻についてしまう。一つ一つのエピソードは北朝鮮なら十分ありえると思えるが、それを寄せ集めてみました感が出すぎてて、ベタで古くてクサい。ベタは結構好きで泣かせられることもあるのだけれど、これはちょっと無理だった。【飛鳥】さん [DVD(吹替)] 4点

 

秀逸なコメント

この映画については、まず演出過多な部分、そして事実を正確に伝えているのか?疑問、それについて払拭されない限り高い点数は上げられないです。なぜなら、だれもそれを見ていないから。もし実際に作中のようなことがあるならば、なぜ、アメリカは?韓国は?諸外国は本気で、北の国民を開放する目的のもとで、攻勢をかけないのでしょうか?正直日本人としては、慰安婦も強制があったかなかったか?日本へ対する、過剰なまでの、嫌う態度、こういうものを見るにつけ、この作品にも演出的な要素が強いのではないかと思ってしまいます。それは置いておいても、北の国民自身に罪はない訳ですから、現状なんとかしてあげたい気持ちは皆が持つと思います。あとこの作品については、脱北という観点で見れば、その手法において、随分と「ぼやっとした」描き方をしていると思います。大使館へ駆け込むにしろ、モンゴルへ越境するにせよ、金の流れにせよ、主人公自身は脱北という意識のないまま、南へ渡ったように描かれています。この辺が、本当に描きたい、伝えたいのであれば、「ぼやっとした」描き方はせず、しっかり納得の形で伝えて欲しかったです。【たかちゃん】さん [DVD(吹替)] 6点

 

【独り言】

これから三連ちゃん、もしかしたら4作連続で「韓流ドラマは苦手だけれど…」のキャッチコピーで韓国映画についてお喋りしようかと思っています。元々は「韓流ドラマは嫌いだけれど…」になっていてそれが本音なのですが、理由は簡単、中国人と異なって顔立ちや発声法が似通っているらしく、現代物の吹き替え版だと口の動きと発音が合ってないという声優さんにはどうしようも無い理由で苦手なのです。ただし、韓国の置かれたいろいろな状況下で日本の映画人にはできないことも数多くあり、それは充分に評価しないといけないと思います。

 

さて、第一作。低評価の方で韓国ではどれほど北朝鮮のことを理解しているのだろうか、とか作り話ではないかというコメントが散見されましたが脱北者からの証言もあり、狭い範囲(本作では健康保険制度)に限定すればかなり正確な情報が把握されているのではないかと思われます。個々の脱北者はそれぞれが抱える問題から脱出するために大きな危険を犯して韓国に脱出してきたわけでそのここの事情に焦点を合わせる限り北朝鮮の現状についてはかなりの正確さが期待できるだろうと言うことです。

 

さあ、そこで主人公ヨンスの脱北の原因になった妻の結核罹患ですが、北朝鮮では下手をすれば結核患者会は完全隔離と家族からの生き別れしかなく、治療薬は外国産で労働党員の家族や限られたエリートでないと入手できず、あるいは道端の闇市で法外な価格で得られているものを入手するしかないようです。これはおそらく事実でしょう。一方で韓国ではおそらく戦後GHQが世界大戦中の空襲や原子爆弾投下に対する罪滅ぼしとして日本に導入したのと同じような保険制度があると思われます。ただし、戦後復興とともに資本を蓄積し、古くは江戸時代から創業を開始したような製薬会社が近代的なシステムで次々と新薬を開発していったのと比べると韓国では医薬品は輸入に頼るか、特許の期限切れを待つか、さもなくば他国企業の製法をパクるかしかしなかったのではないかと思われます。昨今の左翼政権の財閥いじめを見ると、あまりに資本蓄積を軽視しすぎ、日本と異なって科学技術の進歩に活路を見出すこともないような気がします。これがやはり、棚ぼたで近代化と独立が行われた韓国の限界であり、命がけで脱北を果たしてまた独り身になってしまったヨンスが38度線より北に生まれてしまったばかりに。。。という行き場のない敗北感にしか終わらない無力な慷慨しかもたらさない結末です。前向きに生きるのはこの民族には難しいのかもしれません。