かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(150 ) マルタイの女 〜 社会派監督に合掌 7点】

【かわまりの映画ルーム(150 ) マルタイの女 〜 社会派監督に合掌 7点】 平均点:5.25 / 10点(Review 28人)   1997年【日】 上映時間:131分

クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。  https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=3966

 

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【あらすじ】

女優磯野ビワ子が不倫相手との密会から帰宅した時、マンションの駐車場に一人の男が倒れ、逃亡する加害者らしい男の顔をビワ子ははっきりと目撃する。殺された男は宗教団体「真理の子羊」の実態を究明する弁護士で、ビワ子は報道陣の質問攻めに会うが事件担当の刑事達に捜査協力のイロハを教えられ口を慎む。翌日から捜査協力に加えて外出時には二人の私服警官が身辺警護に常時付き添い、ビワ子は自由に身動きできない生活を強いられる。しかしそれでも殺人事件の目撃者となったビワ子に「真理の子羊」の魔の手は忍び寄る。

 

【かわまりのレビュー】

この作品は今までのいくつかの女シリーズでのテーマだった単純な善悪ではないと私は思います。全編から「おまわりさん、ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・(淀川長春のパロディーではありませんよ。)」という伊丹監督の叫びが聞こえてくるようで痛々しいです。考えてもみてください・・・「マルサの女」で血税をとる国税庁査察官の努力の姿を描きながら、「ミンボーの女」で暴力団をテーマにしたばかりに右翼に狙われ、妻宮本信子と夫婦ともども警察のご厄介になりながらの映画活動を余儀なくされたんですから・・・伊丹監督本人の生活を模写したこの作品の中で二人のスゴ腕の警官がその間他の仕事は全くせずに女優ビワ子に付き添い、当然のことながら結構な給料や超過勤務手当てをもらっているのですが、現実の社会では彼らの給与は国民の税金によって賄われているのです。「納税者のみなさん、私がやりたいことをやったばかりにみなさんの税金がこのように使われてしまっています。ごめんなさい・・・。」という伊丹監督の声も聞こえます。映画ファンとしては警官が10人付き添っても構わないからいい映画を作り続けてほしかったですが、その期待が伊丹監督の負担になったことは想像にかたくありません。「もう、勘弁してください。」とう伊丹監督の自殺予告の声まで聞くことができます。伊丹監督の自殺は惜しまれる死ではありますが、やるだけのことは果たした上での散り方だったと思います。合掌。

 

9点(最高点)の人のレビュー

なんかこれで伊丹の映画が最後というのが残念で仕方ない。なんやかんや言われながらも、伊丹の「女」シリーズはどれも発想、映像、脚本、撮り方など斬新で良かったものが多かったと思っている。伊丹の映画を見て驚きだったのは、演技派の俳優が実に多いことだ。彼の徹底した”映画の中のリアリズム”というのが良く現われていたし、意外に見えるタレントの起用が実はその意外性こそがリアルに映るという事を見せた人だった。そういう点で、この映画では伊集院光、ラッキー池田、なんてタレントが実に良い演技をしているのが面白い【奥州亭三景】さん 9点

 

3点(最低点)のレビュー

1.いつも思うのですが伊丹作品って中身の雰囲気が似てると思いませんか?・・・あんましおもしろくないし、そんなに好きでもない。【ピルグリム】さん 3点

2.この映画公開後に伊丹監督は亡くなられてしまい、「…の女」シリーズに終止符が打たれた訳で、実質これが遺作となってしまいました。興行成績が上がらなかったのは、もうそういう時代では無いからなのか…。私は単にこのシリーズは飽きただけ。毎回同じシチュエーションに興味が削がれるだけ面白いと感じません。それとは別に、作品に魅力を感じないのは価値観・感受性の違いなのかもしれない。個人的にどうしても“マルタイ”と聞くと、同名の愛食している簡易ラーメンしか浮かびません。
【_】さん 3点
3.当たり外れの極端な伊丹一三監督作品の中で、残念ながら、この映画はハズレ。最大の敗因は、脚本に三谷幸喜を起用したことのように思います。三谷の力不足もありますが、伊丹との映画製作へのスタンスの違いが大きかった。結果的に、伊丹はこの作品で命を縮めてしまいーーーそういった意味でも、とても残念な作品となってしまいました。【DONGYAOS】さん 3点

4.伊丹十三監督、最後の作品となってしまった本作..しかしながら..凡作..マンネリ化したストーリー展開..「マルサの女」の時のような斬新さは影を潜め..全く楽しめない...【コナンが一番】さん [CS・衛星(邦画)] 3点
5.《ネタバレ》 よかったところ。名古屋章の人情刑事。伊集院光の新米刑事。でも。劇中劇やら劇中映画やらと詰め込みすぎ。それは端折っていいので、法廷での証言のシーンは是非入れてほしかった。基本的には「証言者の勇気」を中心に動いている話だったと思いますが、初めの方は、今までの伊丹映画の「女シリーズ」のパターンから「カルト教団との戦い」が中心になるのか、と読み込んでしまいました。主演女優が年齢を聞かれて、ふてくされた後「44歳!」。一瞬息を呑みました。それならもう少し、無理のない女優を起用してよ。ラストのバイクとのカーチェイス。どんなアホな集団でも、あそこで証人出廷を妨害すれば、裁判で不利になること必至、なのはわかるはず。そういったわけで、これが遺作とはいろんな意味で残念です。【なたね】さん [DVD(邦画)] 3点

 

【独り言】

4作続けて伊丹十三監督の作品をアップしました。キャッチコピーは全て「社会派監督に合掌」ですが本作品のわたしのレビューでその意図はお分かりいただけたと思います。若い頃は国際派でヒーロー役(「北京の55日」の日本軍将校など)もこなし、年を重ねてもイケメンだった伊丹監督は「ミンボーの女」を発表した後に右翼に顔を切られて大怪我を負い、監督としての映画生命は残されていたものの俳優としての映画出演は叶わなくなったのだと思われます。しかしご本人と妻で女優の宮本信子の心労は顔の傷を超える多大なものだったでしょう。海外でも絶賛公開された「マルサの女」1と2では脱税者を忠実に追うタックスポリスたちが描かれていますが、そこには脱税者が善であるとか悪であるとかの主張はありません。タックスポリスたちはただ脱税者たちの強欲を戒めるための罰金を上乗せして払われるべき税金と利息を徴収して去っていきます。彼らの意図は払われるべき税金を払える者に払ってもらうことだけで脱税者の事業や経済活動を抹殺することではありません。納税が必要なのは何よりも、公権力でなければなし得ない正義の実行と悪の抹殺を可能にするためなのです。そしてその権限を公権力に委ねるのはわたしたち国民であり、わたしたち國民は公権力が正しく行使されているかどうかを常に監視する義務があるのです。「マルタイの女」が海外で公開されたという話は聞いたことがありませんが、海外でも人気を博した「マルサの女」2作とセットになってこそ、飛び降り自殺を遂げた伊丹十三監督の遺志が伝わると思います。