かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(126) 日本のいちばん長い日 〜 民族の誇りをかけた降伏 10 点】

【かわまりの映画ルーム(126) 日本のいちばん長い日 〜 民族の誇りをかけた降伏 10 点】 平均点:8.30 / 10点(Review 92人)  1967年【日】 上映時間:157分

クレジット(配役と製作者)などについては下URLをご覧ください。https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=4413

 

【あらすじ】

三百万人以上の死者、原爆投下とソ連の宣戦という状況下で行われたポツダム宣言受諾は日本の再出発の契機となったが、組織の面子をかけて戦ってきた軍隊、とりわけ陸軍にとっては完全な終焉を意味した。天皇の命令と閣議による全面降伏の決定後、一部の陸軍将校らは近衛連隊と協同して天皇を人質に取り、一般市民を盾にする本土決戦を強行しようと計画するが、そのためには天皇自らの終戦宣言、いわゆる玉音放送を阻む必要があった。皇居と放送局の占拠、首相私邸の焼き討ちという過去に例のない事態はどのようにして覆されたのか。

 

【かわまりのレビュー】

最初図書館でDVDを借りて見た後でアナログ経由の劣化コピーで何度見たかわかりません。終戦前日正確に言うと玉音放送が放送されるまでの二十四時間に政府内部で起きた政変にも近いような天皇を人質に取った政争劇がそれほど強烈だったのです。対立の構図は戦争継続を絶対に望まない天皇と本土決戦を望む軍部、とりわけ陸軍の若手将校たち、そしてその間で立場決めかねた総理大臣以下の閣僚たちでした。閣僚の中でも真珠湾攻撃の直前まで開戦に反対していた海軍の長である米内海軍相は早い段階から本土決戦に反対し、陸軍相阿南は血気はやる若手将校らの意気を理解し、また陸軍内でのクーデターを恐れたのか内部的には懐柔策を取り、閣僚会議や御前会議では強硬論を唱えます。しかしやはり決定的だったのは昭和天皇の強い意志でした。


「四方の海 みなはらからと 思う世に など波風の たちさわぐらん」と開戦決定がなされた御前会議で天皇明治天皇御製の短歌を朗詠して戦争に対して精一杯の抗議をなさいました。この時点で昭和天皇は明確に抗議しよう思えばできたはずでしたが、また明日に抗議すれば聞き入れられないことも十分に承知しておられたはずです。この時に天皇の頭をよぎったのは維新の元勲の山県有朋と仲違いして一説には暗殺されたとされる父の大正天皇のことだったかもしれません。昭和天皇はご自分が万能ではないことも議会制民主義の枠組みだけは成立している日本で自分がしゃしゃり出ることが適正ではないこともご存知でした。昭和天皇は開戦時に「とにかく生きよう。父大正天皇の轍は踏むまい。」と思われたのではなかったでしょうか? そして広島と長崎の原爆投下とソ連の宣戦布告後の御前会議で全て状況が日本にとって不利であるとの閣僚からの報告の後で天皇の意志は強固でした。「日本国民を生かすためには無条件降伏やむなし。」と思われ、また「自分はそのために生きてきたのだ。」思われたかもしれません。そして宮殿の一室での玉音放送の録音後、ご寝所に入られた後で天皇は皇居を占拠した陸軍将校たちの実質的な人質となるのですが、天皇はご寝所の周囲に留まった忠実な侍従らに守られて熟睡されたのではないでしょうか。


終戦後、昭和天皇マッカーサー元帥に対面されて自分は戦争責任を追求されて縛り首になってお構わないおっしゃったそうですがマッカーサー天皇の紳士的な人柄に惚れ込んで天皇の戦争責任は追求しませんでした。昭和天皇の長い在位期間中に日本は復興を遂げ経済成長を果たして国民総生産世界2位の国家になりました。昭和天皇はご自分が終戦の時に果たした役割に満足し、さぞかし長生きをしてよかった思われたことでしょう。

 

10 点の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=11&TITLE_NO=4413

 

10 点の人の秀逸なコメント

1. よくこれだけのキャストを集めたなあ、という大作ですが、影の主人公は「時計」でもあります。玉音放送までの24時間、作中では何度も時計が映し出され、時刻が言及されます。着々と進めれらる、「敗戦」への準備。前半だけでも十分にスリリングで面白いのですが、後半は一部の軍人の暴走が描かれ物語はますます加速の一途、これほど手に汗握る緊張が漲った作品も、なかなかありません。もう、誰が正しいとか間違ってるとか、そんな事言ってられる事態を通り越して(もはや取返しがつかないにも程がある、という事態なのだから)、登場人物たちの必死さや焦りに、息を飲み圧倒されます。今の目からみたら狂気としかいいようのない暴走軍人たちも必死なら、NHKの加山雄三だって必死だし、加東大介ですらも(あの顔で一応)必死。鈴木貫太郎首相だって、笠智衆が演じるからノホホンといい味だしてるけど、やっぱり命がけには違いない。そんな中で、最も貫録を誇っている阿南陸軍大臣、演じるは三船敏郎、さんざん貫録を見せつけ、最後も壮絶な切腹を遂げるのだけど、この緊急事態を収めうる唯一の人物と思われた彼が、およそ何もせず、自殺というトンチンカンな行為に逃避してしまうその様は、何とも皮肉です。それにしても、何と多くの人たち、想像するのも困難な数の人たちが、死に追いやられたことか。これだけの犠牲を払った末に、かろうじて成し遂げられた終戦は、まさに一歩間違えば実現されなかったかも知れなかった、というのもまた、大きな皮肉。【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 10点

【かわまりの注↑】「NHK加山雄三」というのは加山雄三が演じるNHKのの朝の放送担当のアナウンサーのことで、エアコンがない時代に陸軍の将校にこめかみに拳銃を突きつけられて「これから言う通りのことを放送しろ!」と脅迫されました。

2. 《ネタバレ》 戦争の悲惨を伝えるにも色々な表現方法があるが、この映画では一部の陸軍の青年将校が戦場で死ねなかった自分の死に場所を求めて、お国や天皇の為、ましては一般国民の為とは真逆の行為に走る狂気を描いています。
したがって私にとってこの映画の主演は三船敏郎笠智衆など有名俳優=政府高官ではなく、クーデターを起こそうとする青年将校達です。
この映画で描かれる自分達の死に場所を与えられなかった青年将校たちはひたすら不快で正視に堪えません。
どの場面でも目をひんむいて、口から唾を飛ばし、ひたすら怒鳴りまくり、自分達の正当性を訴えかけます。
(この時点で広島、長崎の原爆は投下されているにもかかわらず。)
この映画の転機は森近衛師団長を殺害するところです。
軍は命令が絶対などと言う将校が、上官を殺害してしまう。
さらに絶対的なトップである天皇終戦を決断してのに、
これを天皇が周囲の人間に惑わされたからなどと妄想して決起するなど考えられるでしょうか?
この映画では何人もの軍人が死ぬ。しかもオールスターキャスト映画の範疇を超えて非情にリアルにその死を描かれている。
皇居前のカメラに脳みそを吹き飛ばすシーンや、三船の切腹や森近衛師団長の殺害場面など椿三十郎なみの血吹雪である。これは監督の単なる娯楽作品に終わらせないぞという意思を感じる。
私はこの映画を見てからここのサイトのコメントに目を通してたが、
映画の質が高いだけあってコメントも熱のこもったものが多いと思います。
但し(勿論私の個人的意見ですが)この映画の青年将校の迷走、陸軍大臣切腹
大和魂、武士道、サムライなどの旧来の日本の美しい伝統文化と同一視して美化して欲しくはありません。
日本人は平和ボケしていると言われて久しいです。平和であることが否定的に言われるほど平和なのでしょう。では我々は何処に行けばいいのか?この映画ではその行く先は描かれてはいませんが、決して戻ってはいけない時代を克明に記録していると思います。※この映画には原作があり、その内容に誤りがあるなど指摘もあるようですが、このでの評価はあくまでこの映画の内容によるものです。【仏向】さん [CS・衛星(邦画)] 10点

3. 全ての日本人が一度は見るべき歴史的な大傑作と思う。監督岡本喜八の手腕、脚本家橋本忍の豪腕、そして製作の決断をした当時の東宝幹部の志に感服し感動する。かなりの長編だし、わずか一日ちょっとの内閣、宮内省、陸軍まわりの模様を描いたドキュメンタリータッチのモノクロ映画ということで食わず嫌いで見ていない人も多いと思うが(かくいう自分もそうでした)、以下3つの理由でぜひ見るべき。1)誰もが知っている8.15の玉音放送。その裏にはどんなドラマがあったのかをわずか3時間弱で学べる。太平洋戦争を語る上でこの映画はいまだ最上のものと思われる。2)たんたんと進む前半から徐々に物語りはサスペンスドラマとして盛り上る。前半80分を乗り越えれば予想を上回る怒涛の後半の展開には絶対に眠気も吹っ飛ぶ。昨今はやりの軍隊暴発モノ(亡国のイージスetc)のどれと比べてもこちらの方が上。3)東宝オールスターを中心にした豪華キャストの芝居。名場面をあげていくときりがないが、三船阿南陸軍大臣と山村米内海軍大臣の激論の迫力、三舟と笠鈴木総理大臣の別れのシーンの情感、出番は少ないが飄々としながらも気骨あふれる侍従を演じる小林桂樹の名演技、ほんのちょっとだけだが印象に残る加山雄三のNHK職員、等等。ぜひ見てください。【Sean】さん [CS・衛星(邦画)] 10点

4. これは凄い映画を見てしまった。ある意味ハリウッドの『パールハーバー』の対極ともいえる作品ではないだろうか。通常の反戦映画は戦争に対して批判的、もしくは消極的な庶民を主役にして少々押し付けがましい所があるのだが、この映画は天皇を頂点として戦争の幕引きをしなければならない日本の各部署のリーダー達の一日が描かれている。戦争終結の報に接しても「日本男児の半数が特攻すれば勝てる」とか「死んでいった者に申しわけない」と本土決戦を企てて東奔西走する熱血将校や町の警備隊長など、洗脳された狂犬のような連中が「正義」を振りかざして現場で指揮をとっていたのだから、当時はなんと住み難い世の中だったことか。もっとも形は違えど、自らの野望や保身のために、さまざまな権威や思想を持ち出してとんでもないことをやらかす輩、そんな連中は世界中に今でもうじゃうじゃといる。「戦争は最悪の選択」を再認識するためにも日本人だけでなく全ての人類が見るべき映画。
【lafish】さん [CS・衛星(字幕)] 10点

 

8点(最頻出点の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=9&TITLE_NO=4413


5点(最低点)と6点の人のコメント

1. 《ネタバレ》 登場人物の衣装に浮き出た汗ジミが印象的な映画でしたね、出てくる人が、みんな、必死。ただ、なんていうんでしょうか、一人として感情移入できる登場人物がいませんでしたね。戦争が終わってほっとした軍人、あるいは今後の身の振り方素早く計算した人間だっていたんじゃないですか。そういう人とのコントラストで、反乱軍を描けば、身勝手なヒロイズムで突っ走ったみなさん、という評価だけで終わらなかったンじゃないでしょうか。【なたね】さん [DVD(邦画)] 5点

2. この日見た、いちばん長い映画のように感じました。疲れた。【クロエ】さん [CS・衛星(邦画)] 5点

3. 名作として名高い本作..BSでやっと観ることに..う~ん、期待ハズレだった..青年将校達の熱~い演技はそれなりに良いのですが..なんせ演出が古い..(60年代の作品だから、仕方がないんだけど..) さらに、肝心のストーリーが、ただ史実をなぞっただけ..1人1人のバックボーンや背負っているものが、ほとんど見えてこない..「こんな事がありました..」 的な、内容に終始しています..細かいツッコミどころも、ちらほら..とても興味深い題材だっただけに..映画として、残念...(私的に、終戦前後と、鈴木首相に関する予備知識が入っていたせいか、全体を通して目新しさが感じられなかった..史実ものは予備知識があると、いつもこうなってしまう..)
【コナンが一番】さん [CS・衛星(邦画)] 5点

4. 評価は高いがそれほどでもなかった。黒沢年男の濃いい演技が光っていたかな。【MARTEL1906】さん [DVD(邦画)] 5点

5. 実に硬派な作品で、いわゆる「名作」のテイストで、「岡本監督」ということを考えなければ、かなりいい映画だとは思う。娯楽映画風の映像表現や役者の演技の誇張振り、馬鹿馬鹿しいことに一所懸命な姿を大げさにテンポ良く描いてみせるというスタイルは岡本テイストがプンプンするのだが、テーマが重くてストーリーに笑いどころがなく、なんとなく違和感が残ったというのが正直な印象。「血と砂」のように、重いテーマでもコミカルを織り交ぜて仕上げるのが持ち味なのに、原作物のしがらみか、世間への遠慮か、誇張を笑えるほど滑稽にまで持って行けなかったのが最近岡本監督のファンになった私にとっては残念。岡本監督作品という枠をはずして見たら、名作です、と断言できるかも。【nobo7】さん [DVD(邦画)] 6点

 

【かわまりの独り言】

大東亜戦争と太平洋戦争にはアジア諸国の西欧列強による植民地支配からの解放という一面とともに真珠湾攻撃南京大虐殺という日本の歴史に汚点を残すような事実があります。真珠湾攻撃の方は宣戦布告をするべき時に在米公使館員がパーティーをやっていたとかの笑えない事実があり、これはルーズベルト大統領が日本軍の暗号を解読していて攻撃の計画を知っていて止めなかったという事実と対を為してどうかと思います。南京大虐殺の方はわたしは事実だと思いますがその規模(当時の南京の人口よりも多くの人が殺された)とその意図(ナチス同じ民族浄化)は嘘だ思います。いずれにせよ、今ここで生きているからこそ抗議の声上げることができ、生きてそれ果たせなかったら生き残った人々やつぎの世代の人々が検証を行なって間違いについて声を上げていくでしょう。