かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(123) 赤と黒の十字架 〜 名優が演じる信念に基づいた奇行 6点】

【かわまりの映画ルーム(123) 赤と黒の十字架 〜 名優が演じる信念に基づいた奇行 6点】 平均点:n.a. / 10点(Review 1人).   IMDB平均点: 7.6/10点 (Review 2,511人) 1983年【英】 上映時間:143分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=19050

 

【あらすじ】

ナチスの影が色濃い1943年のイタリア、ローマ。アイルランド人で法王庁に勤めるオフラハーティ司教は法王庁職員としての特権と英語を生かしてドイツ軍に抑留された英米の捕虜に接触し、彼らの脱走を助ける。無気力なローマ法王や他の司祭たちをよそに、オフラハーティの良心の活動は英米の捕虜解放からユダヤ人の救済にまで及び、宗教家でありながら反ナチの活動家でドイツの敵としてマークされるに至る。往年の知的俳優グレゴリー・ペックが演じる、実在の行動派宗教家の懺悔聴聞、祈りから変装、スポーツまでこなす異色の役柄が必見。

 

【かわまりのレビュー】

私が知っているグレゴリー・ペックは新聞記者(ローマの休日)、弁護士(アラバマ物語)、作家(キリマンジャロの雪)とみんな知的な職業の役柄で銀幕に登場するのですが、ここではカトリック聖職者・・・もちろん聖職者というのは、特にキリスト教の聖職者の場合、聖書だけではなく語学や歴史などにも通じるインテリなのが普通ですが、この作品中でグレゴリー・ペックが演じるカトリック司教はのっけからボクシングの格好で登場、のほほんとしたアイルランド人司祭としてナチスの目を欺いたり掃除夫や郵便配達夫にバケてみたり、かと思うと上司であるローマ法王に対して正義を説いたりナチス軍人の格好をして敬虔な祈りをささげたり、となんともとらえどころがありません。一方でナチスのカプラー大佐を演じるクリストファープラマーは例えば、「ビューティフル・マインド 」の精神科医の役柄でもそうだったように徹底的に役柄(=職業)に徹しきっています。この二人の対決が見もので、実在のヒュー・オフラハーティ司教もナチスに対してはこんなんだったんだろうな、と思わせるような茫洋とした役柄をグレゴリー・ペックが好演しています。「みんなのシネマレビュー(jtnews.jp)」に登録を要請しておきながら点数が少し辛めなのは決してこの二人の演技のせいではありません。ある日本の映画サイトはこの作品をサスペンスものとして紹介していますが、違った演出も可能だったのではないかと思うからです。サスペンス風のBGMがオフラハーティ司教の信念に満ちた行動とミスマッチだったし、カプラー大佐やローマ法王が常に英語をしゃべっているのも変な感じがしました。

 

【大変重要な参考】

クリストファー・ブラマーと言えばアカデミー賞を総ナメにした作品の「サウンド・オブ・ミュージック」で、お父さん役のトランプじゃなくてトラップ大佐を演じたことで有名ですね。トラップ大佐はオーストリア帝国海軍所属の軍人で海の男でした。第一次世界大戦でドイツと共にボコボコに破れるまでオーストリアは多分アドリア海沿岸辺りに商業港も軍港も持っていたのですが、敗戦と共に領土は縮小し、港は船舶ごと賠償金のかたに取られ、トラップ大佐は失業… 「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台となった1930年台の最後の年にはヒトラーのドイツに無血併合され、トラップ大佐はきっとドイツのハーノーバなどを拠点とする軍艦に乗船して海軍軍人のキャリアに復帰できるに違いない「おめでとう!」と言う知り合いらをトラップ大佐は「そういう問題じゃない!」と一蹴します。かっこよかったですね。こういう筋が通って頑固な役柄がクリストファー・ブラマーの当たり役です。

サウンド・オブ・ミュージック」については https://kawamari7.hatenablog.com/entry/2019/08/16/081516 をご覧ください。ところで、オーストリアには今では海軍はありませんが、ドイツが百年ぶりに太平洋に軍艦を派遣しています。メルケルおばさんが花道を引退するためには567の報復を実行して国民感情をなだめないといけないという少々きな臭いことになっています。総司令官はメルケルおばさんではなく、トラップ大佐ならぬ飴国のトラさんかトラさんがダメならエゲレス国のジョンソンさんです。