かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(121) ブラック・スワン 〜 芸術に憑かれると… 6点】

【かわまりの映画ルーム(121) ブラック・スワン 〜 芸術に憑かれると… 6点】 平均点:6.88 / 10点(Review 166人)    2010年【米】 上映時間:108分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。  https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=18960

 

【あらすじ】

「残念ながら君には白鳥の優雅さしかない。」と言いながらも演出家トマはニナをプリマダンサーに選ぶ。しかし古典バレー「白鳥の湖」に新しい命を吹き込むのは一人二役で悪女を具現する黒鳥の演技なのだ。翌日から「もっとエネルギッシュに、官能的に。」と指図するトマの特訓に加えてニナとトマの関係を中傷する同僚の妬みや過剰で歪んだ母の期待がニナにのしかかるが、それらにも増してニナの前任で事故に遭ったベス、そして黒鳥の大胆さと繊細な舞踊力を備えてニナの代役に選ばれたリリーの存在がニナを苦しめる。

 

【かわまりのレビュー】

怖かった、気持ち悪かった、ナタリー・ポートマンがすごかった!!!本来トップバッターの名誉をいただいた時にはご祝儀で高めの点数をつけるのですが、クラシック音楽(含、クラシックバレー)ファンのわたしとしてはクラシックバレーをこんなにぐちゃぐちゃにされては高い点数は意地でもつけられず、独断と偏見によってこの点数をつけました・・・とはいうものの、クラシックであろうがなかろうが芸術というものは所詮、人間の情念をつきつめて形式美の中に閉じ込めたもの、クラシック音楽をバックにこれだけグロい映画を作ってくれた製作・監督そして俳優陣には惜しみない拍手を贈りたいです。演劇や舞踊などの舞台芸術ではスター俳優・舞踊家の病気や不慮の事故に備えて彼らと常に一緒に稽古をする影のプロがいて、本物のスターには勝るとも劣らない技量をもっているからこそ選ばれたそれら影のプロと本物のスターはいつでも非常な緊張関係にあるのだそうです。ともすると妄想のように頭によぎるお互い同士や演出家・スポンサーに対する疑念を理性で打ち消し、周囲の過度の期待や同僚の嫉妬などにも耐えるだけの強靭な精神力がなければスターの座に留まることはむずかしいようです。初めてプリマの座を得たバレリーナのニーナの複雑な心理をナタリーが好演、本物のバレリーナがスタントウーマンをやっていないはずはないのですが、どこがスタントウーマンでどこがナタリーなのかわからないほどの磨かれた演技とカメラもすばらしいです。 【かわまり】さん [DVD(字幕)] 6点

 

7点(最頻出点)の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=8&TITLE_NO=18960

 

10 点の人のコメントから秀逸なものを抜粋

1. 《ネタバレ》 公開初日に鑑賞し、あまりの素晴らしさに3日おいてもう1回鑑賞した。主人公ニナの台詞をもじって言えばまさに"perfect"な出来だ。下り坂を転がり落ちるように加速し、観客の心を捉えて放さないストーリーテリング、流麗なバレエシーンや少しずつ変調を来たしていくニナの心の動きを大胆に表現した撮影方法、チャイコフスキーの原曲を効果的にアレンジした音楽など、見所は尽きない。

キャストの演技も文句のつけようが無い。ナタリー・ポートマンはまさに鬼気迫る演技で、決して共感を得やすいキャラクターではない主人公のニナに見事に血肉を与えた。時にニナに迫り、挑発し、彼女の隠れた欲望を開放させようとする演出家ルロワや娘の成功を喜びながらも過去の自分のバレリーナとしての挫折を忘れることが出来ないニナの母親エリカ、自由奔放なバレリーナのリリーなど、この映画には個性豊かかつ複雑な役柄が多いが、脇役全員がきちんとそれぞれを演じきっている。

脚本も良い。びっくりするような展開は無いが、現実世界の人間とバレエ「白鳥の湖」の中での役割が少しずつ重複していくスリル感が凄い。悪魔のシーンが予告編で使われてしまっていたのは残念だった。かなり重要かつ衝撃的なシーンであり、劇場で初めて観たかった。

ラスト付近の畳み掛けるような一連のシーンには1回目も2回目も涙が止まらなかった。文字通り血のにじむようなニナの肉体的・精神的努力、ルロワやエリカのバレエへの熱情、それらがラストに遂に結実する。ニナは黒鳥になり、それを超越してラストシーンでは白鳥も演じきった。黒鳥を経て、白鳥へ変貌を遂げる際の楽屋でのニナの表情が言葉に出来ないくらい美しい。全てを理解し、運命を受け入れて最高の演技で締めくくる。嵐のような喝采。この映画はハッピーエンドだったと2回目で理解した。

この作品を劇場で観られて本当に良かった。これが映画だ!僕の観たかった映画だ!【枕流】さん [映画館(字幕)] 10点

2.  《ネタバレ》 バレエ漫画「テレプシコーラ」が好きで、監督の前作「レスラー」がベスト映画の一つである自分にとって、この映画はまさしく一つの理想型なのかも。ナタリーポートマンの演技が…みたいに何かが突出してよいというよりも、全体的にすべてがバランスよくよかった感じがします。
頂点まで追いつめられたあげくの黒鳥の鬼気迫る演技と変身、そしてあらゆるものから解放され自分自身をようやく乗り越えた最後の白鳥。この美しさをさらに超えるのが、ラストシーンのダイブしてからエンドロールに移り変わる白!涙が出るほど美しく、映画史に残る名ハッピーエンドだったと思っています。
<追記>
なんと、どうしても我慢できなくて2回目を鑑賞してきました。さらにぐっときたので1点プラスします。黒鳥後の幕間の、ついに黒鳥になりきれた喜び、実は殺していなかったという安堵、そして自分の命がもう長くないという哀しみなどなどの陰陽入り交じった複雑な涙を無理に拭って人生最後の晴れ舞台に向かおうとするニナを見て、もう涙が止まりませんでした。【HAMEO】さん [映画館(字幕)] 10点

3. 《ネタバレ》 兎に角ただひたすらにナタリーの美しさに引き込まれました、バンサンも良かったし、映画を見ていてこの先どうなるんだろうとドキドキしながら見ていました。久々に感動したしこわくもありました。音楽も良かったし、最後白い白鳥が地に染まる場面,場面を見ながらお願いだから最後まで踊らせてと何度も祈ってしまいました。ナタリーはこの映画で5-6キロ痩せたそうだけど、映画のロケが終わったらすぐに戻ったそうです。映画って本当に楽しめますね、たまに素晴らしい作品に出会えると幸せを感じます。最高でした。でも怖くてこの映画は見直し出来ないかも?。すてきなえいがにであえました。【yasuto】さん [映画館(字幕)] 10点

4. ブラック・スワン』は、ナタリー・ポートマン演じるバレリーナの自己自身をめぐる物語である、という解釈はその通りだと思う。さらに言えば、この物語は、彼女の自己分析的な記憶そのものである。彼女が精神科医への告白の中で紡ぎだした彼女自身の経験と妄想の交錯した記憶こそが、『ブラック・スワン』の物語である、と僕は思う。

映画は、いくつかの視点によって物語を追う。ある時、それは彼女自身の視点として、そして、ある時、それは彼女の背後からの視点として彼女自身を含めた風景の中で捉えられる。演出家のトマも、ライバルとなるリリーも、彼女の記憶により、その性格を改変させられている。

映画とは「他者の視線から見られた世界の風景」である。だが、それはいったい「誰の視線」から見た風景なのだろう。(内田樹『映画の構造分析』)

ブラック・スワン』の場合、それは彼女自身の視覚記憶に基づく視線であり、風景であり、物語である。それが映像の意味を決定している。私は、私の記憶(脳)によって完璧に騙される。彼女は、最後にPerfectと呟くが、ホワイト・スワンたる彼女が最後の最後でブラック・スワンに変身し、彼女の中の善と悪、可憐さと妖艶さ、超自我エス、エロスとタナトスが融合することで得られた恍惚こそが彼女にとってのPerfectだったのだと思う。

最後のバレエシーン。彼女は、ホワイト・スワンの演技で決定的な失敗を犯し、ここで挫折してしまうのかと思いきや、楽屋でリリー(の幻想)を殺戮することにより、衝動的にブラック・スワンそのものに変身する。リリー(の幻想)を殺戮することで得たものは何か? 解放したものは何か?
彼女が求めたものは「美しさ」である。バレエとは、常に自分自身を鏡で映すことで紡ぎだされる肉体運動の美しさであり、自己規律訓練的、反自然的な「美しさ」への自己希求であり、その希求は、結局のところ、他者の承認を求めざるを得ない飽くなき欲望となる。それが彼女自身の変身願望に繋がる幼少時代からの無意識の抑圧であり、妄想の源泉だった。彼女がホワイト・スワンとして死を迎える時に彼女の視線が捉えるのは彼女の母親の姿である。母親の喜ぶ顔を瞼に浮かべながら、その承認を得て、彼女はPerfectと呟くのである。【onomichi】さん [映画館(字幕)] 10点

 

低い点数の人のコメント

1.一人の人間の苦悩をただ見せられてるだけ。観てて苦痛で退屈する。【真尋】さん [DVD(吹替)] 1点

2. つ ま ら な さ す ぎ.         話題性だけの糞映画【Mazelo Nostra】さん [DVD(字幕)] 3点