かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(116) デジレ 〜 抑制された生産的な不倫 7点】

【かわまりの映画ルーム(116) デジレ 〜 抑制された生産的な不倫 7点】 平均点:n.a. / 10点(Review 1人)  1954年【米】 上映時間:110分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。 https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=20707

 

【あらすじ】

フランス地方都市の商人の娘にして貧乏士官の婚約者、ヨーロッパ制覇の野望に燃える軍人の元婚約者兼愛人にしてそのライバルだった自由主義者将校の妻、皇帝の愛人兼皇后の相談役、某ヨーロッパ王室の皇太子妃そして王妃として失意に沈む元愛人と歴史を見つめる日々・・・一生でこれほど多くの立場役割があった女性はこの人をおいてないであろうデジレ・クラリージーン・シモンズが、彼女を終生愛したナポレオンをマーロン・ブランドが演じる華麗な物語。19世紀中流階級の夫婦がヨーロッパ有数の王室の始祖となった実話に基づく。

 

【かわまりのレビュー】

《ネタバレ》 英語の原題 “Desiree”を見た時、この単語は英語の”desire(熱望する)”のフランス語の過去分詞で「熱望された女」を意味し、ナポレオンが跡取を産ませるために苦労を共にした妻ジョセフィンを離婚して一緒になったドイツ貴族の娘マリア・ルドヴィカ(フランス名マリー・ルイーズ)のことなのかと思いました。映画の内容として当たらずとも遠からずですが実は題名はナポレオンの初恋の人で彼に終生愛された女性の名前で、ヨーロッパ史上こんな人がいたとはそれまで知りませんでした。冒頭はまるで若草物語、そして田舎娘が婚約者を追ってパリに行く話・・・そしてストーリーは歴史の波に乗ってあれよあれよという間に展開します。ナポレオンの戴冠式など同題のダヴィドの絵が動いているような華麗さ!!特記したいのはデジレの夫ベルナドットの寛容さと賢さです。デジレに近づいたのは婚約者に振られた田舎娘への同情からだったかもしれませんが、その後ナポレオンを愛し続ける妻を許し、包容し続け、ナポレオンの将校として戦略上か政治上でかで誤りを犯した際は妻のとりなしでお咎めなしで終にはその自由主義の言動と人望が中立国として歩み始めていたスェーデンの王室の目にとまり、夫婦そろって国王の養子となりましたが、二人の直系の子孫が今、世界最高の学術賞ノーベル賞の授与式でのメダル授与役として毎年世界中に存在を示しているわけです。かたや跡継ぎほしさのあまり苦労を共にした妻と別れてドイツ娘と結婚したナポレオンは跡継ぎに恵まれはしましたが、自らの失脚と死の後、学究肌で真面目だったその子はドイツとフランスの両国から疎まれ監視され、不遇のうちに早逝してボナパルト朝は途絶えました。歴史っておもしろいです。 何を演じてもセクシーなマーロン・ブランドと対照的なベルナドット役の控え目な演技が光っています。

 

【独り言】

「男(おのこ)は女(め)がら成り。」と言ったのは平安貴族のあのドン藤原道長(966 - 1028)でした。つまり、男の出世は妻次第ということです。そこで話はフランスに飛んでフランスの士官学校に親の七光(ななひかり)で入学し、うだつの上がらない士官として成年としてのキャリアのスタートを切った、フランスの片田舎よりも向こうのコルシカ島出身の田舎者ナポレオン・ボナパルトは港町マルセイユで財を成した富豪の次女デジレ・クラリーと別れ、世知に長けた貴族の未亡人ジョセフィーヌと結婚します。ナポレオンは出世のためには地方都市の商人の娘と結婚してはいけないと感じ、実際にデジレ・クラリーの姉と結婚したナポレオンの兄のジョゼフは生涯弟ナポレオンの影のような存在でしかありませんでした。

さて、所有している本作品のDVDを見てがら随分時間が経ってもう一度DVDを見ずに書いています。ナポレオンに振られたデジレがナポレオンの片腕と言われる将校結婚した経緯は印象に残ってません。まあ、振られた虚しさの埋め合わせだったとしたら大恋愛の結末として結ばれたわけではないでしょう。デジレはこうして愛するナポレオンの側を職場とする夫に手引きを求めて愛するナポレオンの側に侍ることに相成りました。デジレとナポレオンの関係がダブル不倫なったかといえば、そういうことはなかったと思いたいのです。実際そういった事実はなかったはずです。デジレと夫のベルドナッドは揃ってスェーデン王室の養子になりましたが、キリスト教徒、しかもカトリックよりも道徳的に厳格だと言われる新教徒が国家元首の家系に少しでも汚点のある者を入れるはずがないのです。

 

というわけで、上の正式なレビューに書いた通り、デジレとベルドナッド夫妻の末裔は今でも年に一度はノーベル賞授賞式で受賞者にメダルと盾を渡す果たす役割で世界に向けて存在感を示しています。デジレとナポレオンとの間のあることないこと、いろいろ想像してみるのは現代のわれわれの勝手ですがナポレオンには怖い年上の女房のジョセフィーヌがいたし、ベルドナッドは真面目で誠実そうだし、皇帝にまで上り詰めた昔の恋人ナポレオンを日々目の当たりしたデジレはどういう心境だったのか…そちらの方が興味深いです。なお、本作でナポレオンを演じているのは世紀の色男マーロン・ブランドです。日本では彼のファンが多いのでもっと多くの方に鑑賞していただきたいです。