かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(110) カラマゾフの兄弟 〜 ロシア的長男の命運 7点】

【映画ルーム(110) カラマゾフの兄弟 〜 ロシア的長男の命運 7点】 平均点:n.a. / 10点(Review 1人)   1958年【米】 上映時間:145分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。 https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=18782

【あらすじ】

地主フォードル・カラマゾフの長男で落ちこぼれ士官のドミトリーに元上司の娘カテリーナ(カーチャ)が公金横領の罪をかぶった父を救うおうと借金を申し込む。カテリーナが遠縁から遺産相続した後、ドミトリーは彼女と婚約するが一方で父の愛人で陽気で官能的なグルシェンカに横恋慕し、彼のすぐ下の弟で理知的なイワンはカテリーナを密かに慕う。フォードルの三男で修道士のアレクセイは貪欲で好色な父、無鉄砲な長兄、無神論者の次兄の間の感情のもつれを金銭問題を含め丸く収めようと修道院の長老に調停を依頼するのだが・・・

 

【かわまりのレビュー】

個性的な禿髪で多彩な役柄をこなすユル・ブリンナーのファンは多いはずなのに本作品ではわたしが一番のりです。どうしても先に見たフジテレビ版と比較してしまうのですが、フジテレビ版では次男が主人公に近いのに対して本作品ではユル・ブリンナー演じる長男が中心です。特筆したいのはグルーシェンカを演じたマリア・シェルという女優さんで金髪がきらきら輝いて圧倒的な存在感と魅力がありました。フジテレビ版のグルーシェンカ(久留美)はちょっと暗すぎです。そう言えば長男ミーチャ(ドミトリー、満)もフジテレビ版では軟派すぎました。原作に重ねた場合、次男がちょっと年を取りすぎに見えるほかはすべての配役に関してこちらのほうがわたしが得たイメージに近いです。全編、言葉は英語ながらロシアの雰囲気がよく再現されていると思います。

 

 

【独り言】

ドストエフスキーの最後にして最長の小説「カラマーゾフの兄弟」の序文には本作品は吝嗇で好色な地主の三男に生まれてギリシャ聖教に深く帰依して修道士になったが革命運動に参加して露と消えたアレクセイ・カラマーゾフの物語であると書かれていて、この長大な物語が一応の結末とともに終わるのにもかかわらず絶筆ではないかと思わせます。ただ本映画作品ではユル・ブリンナーが演じる長男ドミトリーが圧倒的な存在感を発揮しています。作者の構想ではロシア貴族的な放蕩者で向こう見ずな長男がまずロシア帝国の末路を予言するかのように滅び、次に作者の分身である科学者のイワンが滅び、最後に純粋な三男が革命によって滅ぶという大河ドラマを描きたかったらしいのです。原作では三人兄弟はまあまあ同じ程度か同じ作者による「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフの双生児兄弟であるイワンが若干手抜きかと思われるのですが、映画作品や舞台、テレビドラマでは脚本家の好みによって三人兄弟のうち一人が突出するのは仕方がないことです。わたしのレビューでも少し触れた日本を舞台にしたテレビドラマではそういうわけで弁護士の次男の存在感が圧倒的で医学生の三男がその次、高校中退でフリーターの長男の影がかなり薄く、せめてこの長男が自衛隊に入隊したけれどメゲて自主的に除隊したとかの設定だったら本作品でユル・ブリンナーが演じている長男に近い存在感があったと思います。長男の満(みつる)を演じている斎藤工はアルチタレントの才人で登場人物の設定さえ原作に肉薄していれば面白い切り口での日本版「ロシア貴族」を見せてくれたかもしれなかったので残念です。