かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(106 ) 愛を読むひと 〜 「読む」という文明の行為 7点】

【かわまりの映画ルーム(106 ) 愛を読むひと 〜 「読む」という文明の行為 7点】 平均点:6.65 / 10点(Review 77人)   2008年【米・独】 上映時間:125分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。 https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=16719

 

【あらすじ】

15歳だった僕(マイケル)はある日帰宅途中に嘔吐し、30代の女性ハンナに介抱された。病気恢復後、お礼に行って僕は彼女と肉体関係を持つが、その後彼女は訪問する度に必ず文学作品を朗読するよう僕に命じた。だが、ハンナは突然街を去り、僕は大学法学部に進学して遡及効のナチ戦犯への適用を研究テーマにする教授のゼミに所属した。そして教授の引率で傍聴に行ったナチ戦犯の法廷で僕は被告席に座るハンナと再会した。記憶の中の彼女と法廷での彼女の答弁から彼女が文盲だと僕にはわかった。文盲をひた隠しにするハンナはどう裁かれるべきなのか。。。

 

【かわまりのレビュー】

ケイト・ウィンスレットアカデミー賞主演女優賞受賞の後でDVDを借りて見た時にはあまり感慨がなかったのに、原作の日本語訳「朗読者」を読んだ時には相当の感慨があってDVDを借り直しました。

法律運用の上では文盲は処罰の相当な軽減理由になるはずですが、おそらく言語もドイツ語ではない現在のルーマニア領から未成年の時にドイツ流れてきてどの職場でもそれなりに評価されながら管理職に抜擢されそうになると転職してきたハンナの意地は「文盲だということがバレればわたしはこの国の下層階級の人々かそれ以下。」という国民のほぼ全員が読み書きができる島国日本に住む日本人には想像を絶する事実から来ているようです。これに対するマイケルの反応もこれでしかありえない、ハンナが読み書きできるようにするというものでした。でも、多民族がひしめき合うヨーロッパで国境を越えて流れてきた者がお隣の国の言葉を何とか喋れても読めないのは不思議でも何でもなく、マイケルが教授(原作では裁判官)に事実を言って情状酌量の可能性を尋ねなかったのは。。。やはり日本人の理解を越えているのでしょうか? その後にマイケルは贖罪のような行為を取りますが、ということはやはりドイツにおいても相談してみるべきだったということなのでしょうか?

 

遡及効というのはある事件に事件発生後に制定された法律が適用されて効力を持つことで、大多数の事件については原則として遡及効はありませんが、敗戦によって第三帝国が滅んで全く新しい政府が発足したドイツでは戦犯や戦後処理に絡んでかなり哲学的な議論が生じたはずです。哲学者を父とし、ハンナとの満たされない関係によって心理的に思春期に留まっているマイケルが学究を口実に大学に残り、裁判官として現実社会を歩む妻と離婚してハンナに尽くすようになる内面の過程は映画では描ききれていないのでこの点数です。

 

10 点の人のコメント

1. 《ネタバレ》 物語としての完成度の高さに圧倒されました。前半のエロエロから一転、後半はイロイロ考えさせられます。まず、何を「恥」と思うかは人それぞれということ。親子ほど年齢の離れた男に裸身は平気で晒せるのに、文盲であることは誰にも明かさない。その感覚はよくわかりませんが、だからこそヒロインの人格に厚みを感じます。
そしてもう1つ、性欲と愛情と優しさと贖罪は“別物”であるということ。重なり合う部分もありますが、たいていは違います。後半の主人公の行為は優しさと贖罪によるものであり、性欲はもちろん愛情もない。しかしヒロインは、なお重なり合っていると信じることが唯一の生きる“よすが”だった。こういうズレは、両者にとって切ないですね。【眉山】さん [インターネット(字幕)] 10点

2. 《ネタバレ》 やられた、という感じですね。「めぐり合う・・」でも確かに時代の変化と主人公達の変化をうまく絡ませて味わい深く表現していたんだけど、これは秀逸です。ケイトの演技はさすがですが、マイケルの役の二人もこの主人公の心情を旨く表現していたんじゃないかな。若いときの一途な愛と真実を知ったときの苦悩、そしてそれらの過去を体験として冷静に受け止める年齢になった時の複雑な心境と自らの家族関係を踏まえた生き方なんか、主人公の気持ちがスーと入ってくる感じでした。出所を控えて再会した時のすれ違いには、予想できた事とは言え、グッとくるもがあった。女は過去が未来へと繫がって欲しい希望を見出そうとしたけど、男にとっては過去は思い出でしかないという現実を確認することになっていまった。再会して、又何かが起こるのではという双方の気持ちに、結局は決定的な亀裂を生じるという悲劇が目の前に突きつけられたのだ。教会で賛美歌に聞き入るハンナのエピソードをもう少し掘り下げたらさらに良かったんだが、それでも、まいったなあ。【パセリセージ】さん [DVD(字幕)] 10点

7点(最頻出点)の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=8&TITLE_NO=16719

1点(最低点)と4点の人のコメント

1. 面白くない。
盛り上がる場面も無いし、何が伝えたかったのかコンセプトも何も分からない。
まあ、「感じ取らなければならない」場面というのもあるにはあるのかも知れませんが、別に他の映画で見たことのあるシュチュエーションだし、この映画を選ぶ理由は全くない。【アーリー】さん [映画館(字幕)] 1点

2. 《ネタバレ》 後半でようやく意味がわかってきたのは良かったけれど、どうもテンポについてゆけず長く感じてしまった。前半はほぼ主人公の2者関係のみで進み、後半は彼らとつながる人々の人間関係の広がりがあり、ストーリーとしても骨太な印象だった。が、どうみても親子のような二人でも恋愛が成立するということが自分の中ではあまり理解できない部分であるので、このような物語のよさがくみ取れなかったのは自分自身の未熟さゆえだと思う。そしてケイトの裸に、年を重ねることの哀しさを思い知らされた・・・。【おっちょ】さん [DVD(字幕)] 4点

3. 《ネタバレ》 原作未読。前半は村上春樹ばりのお坊ちゃまクンのドリームワールド全開で唖然・・・。訳知りの年上女が勝手にズボンのファスナー下ろしてくれるどころか、いきなり全裸で背後から襲って来てくれるなんて。しかも、ひと夏限りであっちから勝手に去ってくれるという、なんちゅう都合の良いオネエサマ。そりゃあ、忘れられないわけだよ、坊やは。果たして、後半は雰囲気一転。オネエサマは被告席に。そこで坊やはオネエサマが文盲だったことにようやく気付く(かなり鈍い)。かつてオネエサマご教授のテクを駆使して(かどうか知らんが)若いコとSEXしたりしながら一応悩んでもみたりする。でも結局、彼は見ているだけ。こうして、彼は大人になって弁護士になって、贖罪のつもりか「朗読者」になるんだけれども、これ「傍観者」だよね、実際は。唯一、救いのある解釈をすれば、彼が敢えて何もしなかったのは、彼女の「全てを犠牲にしてでも文盲であることを明かさない」そのアイデンティティーを最後は尊重したからだ、と。でも、違う気がする。それを建前に、本音は自己保身・・・。いや、でもそれを責めるには可哀相だよね。なんたって、彼は坊やなんですから。ラストシーン、娘に話すって、意味が分からん。どこまでも独善的なマイコー。う~、こんなハナシ、父親から聞かされる娘の身にもなってくれ。それにしても、これ、何で英語なのでしょう? ドイツ語でやって欲しかったなぁ。違和感ありまくり。レイフ・ファインズも何だか色褪せちゃいましたねえ・・・、好きだったんだけどなぁ。ケイトは頑張っていました。ダルドリー監督、過去2作品はその評価も納得だけど、この作品については??な演出でございました。次回作、期待しています。【すねこすり】さん [DVD(字幕)] 4点

4. 《ネタバレ》 途中から一気に話が重たくなります。決して楽しい話では無いのですが、主人公が朗読を録音している姿にはシビレました。【山椒の実】さん [地上波(吹替)] 4点

5. 《ネタバレ》 まずドイツなのに英語の時点で乗りきれず、開始早々いきなりお風呂→裸になんじゃこりゃな展開。まぁそれでもこういうのも悪くはないのですがw後半いきなり重~い流れになり結構びっくり。それにしてもしかし文盲の彼女がナチスのSSしかり、路面電車の会社にしかり入ることができるのかなぁ、とやっぱり思ってしまったり。ケイト・ウィンスレットはなかなかだったけど最後まで乗りきれなかったかな~。そんな印象でゴザイマス【Kaname】さん [CS・衛星(字幕)] 4点

6. うーん・・ 雰囲気は素晴らしかったのですが、最初から全体的に非常に重たい空気感が強い映画でした。途中から方向が変わってきますが、更に重い方向へシフトしてゆきます。シフトの理由が文学的でこの映画を詩的なものに昇華していますが、とにかく重いの一言。

まあ、ハリウッド的に安易にドラマチックにしなかったことは評価したいが、映画を観て気分が落ち込むのはあまり良いとは感じません。よってこの点数です。
【アラジン2014】さん [ビデオ(字幕)] 4点

 

【独り言】

「あらすじ」の中でわたしはわざと「遡及効 = 効力が過去に遡ること」という難しい言葉を使いました。この言葉は純粋な法律用語で日常で使われることは稀です。平たく言えば「ある法律それが制定された以前に遡って効力発揮すること」で、多くの法治国家と民主主義国家では遡及効は否定されていて、法律は制定・公布されてから公布時に定められた一定期限よりも以前に行われた当該法律に違反する行為を裁く基準にはならないのです。法律は過去に行われた違法行為を裁く基準になります。決して現在や未来に起きる違法行為を裁く基準にはなりません。法がある行為を裁く時には裁かれる行為は常に過去に属するのです。但し、際限もなく遡ることはありません。近代法治国家では常に制定・公布された時点から周知徹底に充分必要と考えられる一定期間を経過してからでないとその法律は効果を持ちません。ところがわたし達のお隣の国である韓国では「過去の過ちを正す」という建前から法律が当たり前のように制定あるいは公布された時点よりも際限もなく昔にまで遡って法律が効力を持ちます。韓国も法律のある民主主義国家なので、法律が際限もなく遡及効力を持つのは国民の総意に基づいていると言えばそれまでですが他民主主義国の法慣習と足並みをそろえるべきか否かはこれから議論されるべきことでしょう。さて、この物語の主人公で語り手であるマイケルは法律を専攻し、この遡及効に関心を持ちました。マイケルの国のドイツはもちろん民主主義国家であり法治国家です。他の西欧諸国などと同じく遡及効は法律の制定以前に遡ることはありませんがただ一つ、第二次世界大戦中にナチスドイツ語が犯した戦争犯罪に関してだけは戦犯達は戦後に制定された法律によって裁かれるのです。そしてゼミの教授に引率されて傍聴した裁判の場でマイケルは戦犯で被告席に座る、思春期の自分を男にしてくれた女性と再会してしまったのです。

 

法律を本格的に学んだ人が読んだらさぞかしツッコミどころ満載に違いないことをちらつら書きましたが、この作品が誰にでも大なり小なりあるはずの対峙し克服しなければならない「過去」という重い課題の解決法になればいいです。