かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(67) オフィシャル・ストーリー 〜 政治動乱の中で不変のもの 10点】

【かわまりの映画ルーム(67) オフィシャル・ストーリー  〜  政治動乱の中で不変のもの  10点】平均点:n.a. / 10点(Review 1人)   1985年【アルゼンチン】 上映時間:115分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。 https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=501

 

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【あらすじ】

政情不安が収まりひとまず落ち着きをとり戻したアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでの物語。ある金持ち夫婦は反政府主義者の子供かもしれない女児を育てていた。高校で歴史を教える妻は生徒、同僚そして友人などに真実を知ることの重要さを教えられ、自分の養女を手放した生みの親に対する後ろめたさも手伝って、夫に逆らって養女の生みの親を探そうとする。妻の行動によって安穏な生活を送る夫婦は反政府主義者に対する人権抑圧など、アルゼンチンの暗い過去を知るようになる。

 

【かわまりのレビュー】

先進国ながら貧富の差が根強く存在し軍部によるクーデターが繰り返されたアルゼンチンの首都ブエノスアイレスを舞台に「人間の真実」という普遍的なテーマを主題にしたドラマ。題名には「教科書に書かれていないことが人間の真実なんだ。」という意味が皮肉っぽく込められています。家庭ではかわいいわが子にメロメロの主人公が男子校の教壇に立つとがちがちの女史タイプに変身するのが面白い。でもその態度のせいで茶目っ気のある生徒に「センセ、歴史教えようと思ったら教科書読んでいるだけではだめだよ・・・。」と教えられることになるわけです。政情不安のアルゼンチンでは「暗い過去」はたった数年前の出来事ですが、日本でも60年遡れば原爆やら中国残留孤児などの暗い歴史が存在します。それなのに、映画の中の夫の態度からもわかるように、たった数年前のことであっても私たちには嫌なことからは目をそらそうとしてしまいます。平穏な生活の中で主人公が目をそらしがちな暗い歴史を探り、終に真実に向かい合うまでの過程が淡々と描かれています。子役がとてもかわいいし夫婦を演じた中年の俳優さん二人の抑えた演技がすばらしいです。

 

【独り言】

昨今の話題との絡みで言うとアルゼンチンは中南米で唯一、日本がホワイト国と認定しています。アルゼンチンがしっかりした官僚制や輸出入管理システムがある信頼できる国だからなのか、はたまた中南米には核兵器を製造して周辺諸国を威嚇するような物騒な国がないのか、おそらく両方だと思います。

 

アルゼンチン固有のごく最近の歴史、しかも政権が多感な思春期の子供達にひた隠しにしようとしている歴史としては同国で繰り返されたクーデターと歴代のクーデター政権が行ったと言われる反対派の弾圧は記憶されるべきです。でも日本と異なり短い歴史しか無い新大陸の国の中高生達は、アメリカもそうですが、長々と歴史を学ばなくてもいい代わりに証人が存在する近い過去の歴史を評価しなければならないず、それも大変だと思います。本作品における不変で普遍的なものについては日本の平安時代歌人和泉式部の歌を引用しておきます。

 

とどめおきて誰をあはれと思ふらむ 子はまさるらむ子はまさりけり

 

日本は類似の問題として北朝鮮による拉致被害者の問題があります。一日も早く拉致被害者全員が帰国し、かれらの証言を元に人権抑圧が人々に与える悲しみをどんな形であれ世界中の人々に訴えかけて欲しいものです。本作品も同じ観点から多くの日本人に鑑賞して欲しいです。

 

以上

 


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