かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(33) 炎上 〜 至宝はこうして消滅する 9点】

【かわまりの映画ルーム(33) 炎上 〜 至宝はこうして消滅する  9点】平均点:7.00 / 10点(Review 22人)    1958年【日】 上映時間:99分. クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。  https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=6828

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【あらすじ】

僻地の寺の跡継ぎに生まれた溝口吾市は父の縁故で国宝建造物を擁する驟閣寺の小僧となって仏教大学に進学するが、病死した父を裏切った母との確執に悩み、世知に長けた住職や純真な同輩の鶴川と生来の吃りで醜い自分を比較するうちに国宝の驟閣寺御堂に永遠の美を見出す。誰もが戦後の無気力の中で生きる道を模索する中、吾市は虚無的で毒舌家の同級生戸苅に感化され、学業を放棄して学費を女遊びに使い込み家出を試みるなど放蕩にのめりこむが、その過程である確信に到達する。「驟閣寺御堂を破壊しなければならない。」

 

【かわまりのレビュー】

「新平家物語」でさわやかな好男子としての平清盛を演じた市川雷蔵が醜い吃りの学僧をどうやって演じるのか興味津々で鑑賞しました。さわやかな目鼻立ちなど暗い演技で消えてしまう演技派俳優の面目躍如たるものがあります。原作は何度も読み返しましたが主人公が金閣寺に放火する経緯を明らかに書いたのでは面白味がなくなるし、主人公が破滅に進む経緯が丁寧に再現されていなけれは読む価値がなくなるそのバランスと語り口がすばらしい作品です。映画のほうも負けてはいません。

 

7点(最頻出点)の人のコメント

https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=8&TITLE_NO=6828

8点以上の人全員集合!

1. 重い作品ですが、何度も見てしまいました(ビデオ)
監督は当初、主役に川口浩を考えていたそうですが、市川雷蔵で正解です 彼のはじめての現代ものですが、表現力のある人だとおもいました 中村鴈治郎もいやらしい感じがうまく出せてると思うし、当時彼は大根といわれていたそうですが、これで大根なら昨今の役者は…
圧巻はラストの炎上シーンですね 木立の向こうに火の粉が舞い上がる美しさは筆舌に尽くしがたいものがありました 日本海の厳しく、わびしい雰囲気もよく表現されていたし、宮川一夫って凄い人だな
【宵待草】さん 10点

2. 高校時代に初めて見た市川雷蔵の映画。見る前は「どうせアイドル映画だろ。まあ、市川崑監督だし、見てみようか。」などと軽い気持ちで見始めたのだが、これが拾い物だった。主人公はドモリの学生僧というおよそアイドルが演じるような人物ではなかったが、雷蔵は見事に演じていて、圧倒されてしまった。ほか、仲代達矢が足の悪い嫌味な役を演じているのも印象的だ。宮川一夫の撮影もキレイだったし、黛敏郎の音楽も(ちょっと怖かったけど)良かった。もちろん、監督の演出も的確であり、傑作である。【イニシャルK】さん [CS・衛星(邦画)] 9点

3. 三島由紀夫の代表作「金閣寺」の映画化。舞鶴の貧しい寺の子として育った吃音で劣等感が強く内向的な青年吾市が彼にとっての美の象徴である「驟閣」こと「金閣」に放火し消失させるに至った経緯を描いている。当時二枚目時代劇俳優として売出し中だった市川雷蔵が吾市を演じることに大映は猛反対したらしいが、結果として彼の演技が認められる作品となった。私にとっても雷蔵と言えば眠狂四郎だったが、この映画を見て初めて「市川雷蔵」と言う人の個性を強く感じた。大人の世界の汚さと、自分自身ももはや無垢ではないという事に対する嫌悪感。強い劣等感とそれに匹敵する程の強い自尊心。セリフが少ない本作だがそんな10代の複雑な心理がよく表現されている。宮川一夫の映像がまた素晴らしく、市川崑にはやっぱ宮川一夫だなとつくづく思った。へちょちょ星人さん登録ご苦労さまです。つたない文章で先に書いてしまいました。スミマセンです。【黒猫クロマティ】さん 8点

4. 10代の時に原作の「金閣寺」を読み、その心情の全てを吐露し抉り出すような文章に圧倒され、日本語はこんなにも美しく深くグロテスクなのか、という畏怖に似た感情を抱いたのを憶えている。言葉は時には心を凌駕することもあるのかも知れない、そう思った小説の1つでした。しかしあまりにも観念的に過ぎ、しかも私の読解力が呆れるほど痛い為、主人公の内面世界の外の状況が客観的に分からなかった(記憶がある…私だけかな?)。そしてこの映画化作品を観た時にやっと理解した。こういう状況だったんですね。小説と映画の両方に接することをお勧めしたい作品です。どちらも強烈な美意識に溢れています。「滅して初めて完成される」、それは仏教観念の1つなのです。【ひのと】さん 8点

5. 《ネタバレ》 三島由紀夫市川雷蔵は相性がいいのか?この二人の「剣」も自分にはお気に入りだ。果たして、この作品。原作の「金閣寺」は高校生の頃に読んだが、老婆とのシーンが心に刻み込まれてて、もはやトラウマだった。しかし、この映画では、そのシーンはなかった。まとまった好作品として、完成されてた。観終わると、ほっと安心したような、残念だったような、複雑な気分だ。映画の品は保たれたが、あの作品の毒は薄まってた。でもそれを置いとくと、さすが市川崑。実に映像的に素晴らしい作品を創り上げた。二代目中村鴈治郎市川雷蔵のコンビは「殺陣師段平」で、強烈だったものだから、嬉しいキャスティングであった。絶望色の濃い内容に、中村のコミカルな存在感は、観てる我々に安心感を与えてくれていた。それにしても金閣寺の名前を使うのは、映画会社の上から、圧力があったのか?この映画では別の寺になってたが、市川崑の映像表現力なら、金閣寺でもうまく創り上げたろうに・・。【トント】さん [DVD(邦画)] 8点(2015-04-26 19:32:27)(良:1票)

 

【独り言】

この作品の記事をアップロードする一か月ほど前に京アニメの放火事件があり、ある識者の方がこの事件と金閣寺の放火事件との類似性について語っていた。この2つの事件の類似性をいくら語ったところで金閣寺という世界の至宝も京アニメの建物の中にあったフィルムと亡くなられた方々の頭 の中にあったアニメ作品の構想は二度と 戻ってはこないのだが、せめてこの作品を観て、あるいは三島由紀夫の原作を読んでどのような人格と状況が結合することによって有形無形の至宝が消滅させられるのか考えてみたいものである。