かわまりの映画評と創作

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【映画ルーム(5)ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 〜 報道とは何か 8点】

【かわまりの映画ルーム(5)   ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密 〜 報道とは何か  8点】平均点:7.39 / 10点(Review 36人)   2017年【米】 上映時間:115分  クレジット(配役と製作者)などについては次のURLをご覧ください。  https://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=24503

 

このブログの内容全ての著作権はかわまりに帰属し、映画タイトルの次、"〜"のすぐ後ろのキャッチコピー、【独り言】と【参考】を除く部分の版権はjtnews.jp に帰属します。平均点とレビューワー数はアップロード時のものです。

 

【あらすじ】

ベトナム戦争末期の1971年、夫亡き後にワシントン・ポスト紙の単独社主となったキャサリン(ケイ)・グラハムは編集主幹のベン・ブラッドリーと協力し、同族経営に反対する社内勢力をなだめながら采配をふるうが、不正に入手されて持ち込まれた政府の軍事機密文書を自ら精査する間になぜかニューヨーク・タイムズ紙にその文書の真髄をすっぱ抜かれる。NYT紙に依拠する反戦世論と政府権力との対立が鮮明化してWポスト紙が忘れられようとした時、更なる関連機密文書がWポスト紙に持ち込まれ、ケイと報道に命をかける男たちには会社の命運をかけた真の国益のための決断の時が迫る。

 

【かわまりのレビュー】

《ネタバレ》 機密文書の内容は「3政権に渡って国民は騙されていた」というだけで最後まで詳しく明かされないません。地味な作りの作品という印象でした。というか、真面目に歴史を勉強したアメリカ人なら機密文書の内容は言われなくて知っているので必要ないのでしょう。表現や出版の自由は英語圏の国々では国家体制の根幹をなすもので、その意味では政府 v.s.ニューヨーク・タイムズ紙と政府 v.s.ワシントン・ポスト紙の法廷での争いも最初から結果は見えていました。でも同じ訴訟が日本で起きたらどうなるのか、あるいは法廷が支持率の高い政権や蝋燭デモの主張を忖度するような国でははどうなのか、考えさせられます。日本では本作のケイ・グラハムやベン・ブラッドリー、反戦主義者たちや終わり近くで登場する兄を戦場に送った若い女性のように人が死なないことが国益だということが明々白々すぎてこんな訴訟は今のところ起きそうにありませんが、日本政府がこのまま軍事装備を増強していけば遅かれ早かれ仮想敵国には絶対秘密の軍備の内容などを巡って機密漏えいが国益に反するか国民の知る権利のほうが大切だとかの議論は起きるでしょう。それにしても権力の奢りというものは怖いです。それから、ニューヨーク・タイムズ紙のすっぱ抜きのエピソードはワシントン・ポスト紙から見ると「なぜか」ですが映画の視聴者から見れば経緯は明らかで記者クラブ制のない国ではこんなことも行われるのだと驚きました。メリル・ストリープは年を重ねても色っぽくて相変わらず理知的だし、仕事人間の役では右に出る者のないトム・ハンクスが演じる編集主幹のベン・ブラッドリーが自宅の一室にこもって部下と仕事をしている時に「一杯25セントです。」と言ってレモネードを差し入れた小学生の娘に「50セント払うぞ!」と言うシーンが微笑ましかったです。

 


10点の人のコメント:

https://jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=11&TITLE_NO=24503

9点の人のコメント

https://jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=10&TITLE_NO=24503

7点の人のコメント:

https://jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?POINT=8&TITLE_NO=24503

 

【独り言】

今日(2001年8月1日)現在、メディアは揺れている。先の参議院選挙ではN(マスメディア名)から国民を守る党が議席を獲得したがその少し前から日本国民の耳目を集めている対韓国輸出規制強化はインターネットの利用に長けた経済産業大臣がとうとう事実を「輸出規制」ではなく「禁輸」と報じたマスメディアを名指しで注意するに至った。確かに日本政府が行ったのは説明をよく聞けば輸出規制強化であり禁輸ではない。限られた時間なり紙面スペースしか与えられていないが故にメディアは細心の注意を払って言葉を選んでほしい。しかしこの問題は三年ほど前の韓国朴槿恵政権それ以前に日韓関係において生じたことから書き起こさなといけない。

 

この「独り言」の目的はある特定のメディアを名指ししてあげつらうことではない。だから批判されるべきメディアの名前はスーパードライ新聞としておこう。目下、反日で気炎をあげている韓国で一番叩かれている日本産のビール名である。その理由は韓国人の口に合わないからではなく、むしろその反対だと思われる。このスーパードライ新聞が朴槿恵政権かそれ以前から第二次世界大戦中に朝鮮半島から従軍慰安婦として日本軍の行軍に従った朝鮮人女性の数は20万人でそのうち多くが従軍を強制されたと封じ、日韓双方で物議を醸し、後日その報道が吉田某という人物が書いたフィクションに基づいていたと暴露されたのである。思えばスーパードライ新聞は第二次世界大戦中は軍部の御用新聞だったのに戦後は手の平を返したように日刊各紙の中でも最左翼と目されていてその論調は戦後一貫して戦争反対を通り越して戦中戦前に日本人がやったこと全てを糾弾するものであるという。「君子豹変す」と言えば聞こえがいいが戦時中に軍部の片棒を担いだ反省から戦時中に起きたことは全て悪と決めつけるのも戦時中にもあったかもしれない良識に目をつむる偏見であり、偏向であり、更に言えば思考停止なのである。政治家でもジャーナリストでもない一般市民は思考を停止したメディアからの報道は断固として拒否しなければならない。さて、では報道とはどうあるべきなのだろうか。

 

本作品の巻頭でキャサリン・グラハムが登場するのは寝室においてである。ベッドの脇に多数の書類バインダーを積み上げて、夫がなくなるまでは専業主婦だった彼女は持ち込まれたこれらの書類の内容が報道に値するかどうか、もし報道に値するのならばどのようにか一人で山のような一次資料とおぼしき書類と格闘する。後にニューヨーク・タイムズとの確執と更なる書類が持ち込まれたことによって彼女一人の手には負えなくなるのであるが...。ただ編集主幹のブラッドリーの采配によって山のような資料が複数の記事の執筆責任者によって分担閲覧された後もキャサリン一人が寝室で閲覧していた時も閲覧者達には変わらない姿勢があったがそれは真実に対して虚心坦懐だったということではないだろうか。アメリカに勝って欲しい、勝ってベトコンを蹴散らして欲しいと彼らが思い、彼らの願望と相反する事実を看過していたならば今のアメリカは変わっていたはずである。彼らが虚心坦懐に政府高官の間で交わされたであろう機密文書を読み解いてベトナム戦争での勝算を判断し、錯綜とした権力構造の中でかき消されてしまった真実を見つけ出し、あぶり出したからこそ、アメリカは傷を負っても現代のアメリカなのである。

 

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